謹賀新年?
「勘兵衛様」
ふらりとやってきた青年からは離れていても酒の香が濃厚に漂ってきていた。
新年会と称してはいたものの、とどのつまりは何時もと変わらぬ宴会騒ぎ。
だが常であればこのように酒を過ごすことの無い青年の珍しい失態につい勘兵衛は繁々と青年を見つめた。
潤んだ瞳、赤く染まった頬。元々色が白いために血が上ると直ぐ赤くなるのを嫌って、あまり酒を嗜まない青年だが決して酒に弱いわけではないことを勘兵衛は知っている。
ならば、と予感に従って周りを見渡せば先程青年が座っていたあたりに滅多に手に入らない舶来物の酒瓶が転がっているのが目に入った。
「…誰だ、七郎次にアレを飲ませたのは」
思わず独りごちた勘兵衛の様子を全く気にすることなく、七郎次は再度相手の名前を呼んだ。
「…勘兵衛、様?」
「何だ」
ぺたんと目の前に腰を下ろして、何処か不思議そうに頭を傾けた青年の首の角度を修正してやりながら勘兵衛は律儀に其の意図を問うた。
酔っ払いに何を言っても無駄だとは分かっているが、この青年に限って理性が飛ぶことなどありえないと心の何処かで思っていたのだろう。そんな自分の考えが砂糖よりも甘いものだと思い知らされたのは青年の口から発された想定外の科白によってだった。
「勘兵衛様は格好いいですよね。七郎次は大層羨ましゅう御座います」
げほっと口にしかけていた酒を喉に詰まらせ勘兵衛は盛大に咽た。
同時に周りで自分たちの様子を楽しんで見ていた連中がざわっとざわめく。
…うわぁ。手に負えない酔っ払いがここに居る。
「七郎次」
留めようとした勘兵衛の努力も虚しく。
「でも、其れ以上に」
突然、其れまで一応真顔だったはずの整った顔がにょへらと笑み崩れ、遠慮も何も無く七郎次は勘兵衛の首っ玉に抱きついた。そして事態を理解できず、其の場に固まった勘兵衛の広く引き締まった胸板に秀でた額をぐりぐりと擦りつけながら、周りの眼など全く気にすることなく盛大に愛の告白を披露する。
「七郎次は勘兵衛様をお慕いしております愛してますーっ!其の精悍で無愛想なお顔立ちも、普段は死んだようなのに戦になると生き生きする眼も、一寸野性的な浅黒い肌も、其の不精で伸びた長い髪も、全部全部全部!!!もう、どうしようもないくらい大っ好きですー!!」
勘兵衛の手からぽろっと酒の杯が落ちた。
場の空気も凍りつく。
「かんべ」
「…落ち着け、七郎次」
渋い表情で勘兵衛は手のひらで七郎次の口を塞ぎ、もごもごと何やら抵抗するのを封じる。
「おぬしが儂のことを如何思っているのかよく分かった」
本心でな、とは心の中で付け加え。
「だが、寝言は閨で言うものだ」
言うが早いか七郎次の首に手刀を振り下ろした。
あっさりと意識を失い、くたりと勘兵衛のほうに倒れ掛かるのを危なげなく支える。
「全く…」
呆れたように溜め息をつきながら、勘兵衛はひょいと七郎次の細い身体を肩に抱え上げた。
波が引くようにざぁっと分かれる人垣の間を悠々と通って行く姿を人々は黙って見送る。
その際、本当は余計なことを言う口を唇で塞ごうと思ったのだが、と勘兵衛が密やかに呟いたのを聞いた人間は例外なく己の聞いたものを幻聴だと信じた。
お粗末!
蛇足。
新年明けましておめでとう御座います。(因みに書いてる日にち一月四日だと言い張る…)
如何考えてもおっさまも七郎次も偽者です。本当に有難う御座いました。
多分某所のお若い勘兵衛様と七郎次に多大な影響を受けております。
一月中はフリー配布とさせて頂きますので、宜しければどうぞ遠慮なくお持ち帰りください。
弐〇〇八年
Noface きわ拝
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