What is he look like?




にゃあ。

甘く鳴きながら猫が荷物を片手に持ち、細い路地を通り抜けようとしていた男の足元にするりと身を寄せた。
「…っと、危ない」
危うく其の小さな存在を踏み付けてしまいそうになり、慌てて男は自分の足元に注意を向ける。
痩せた猫だ。だが、顔立ちはきりりと整っており、野良猫特有の険しさは其処には無い。
一見すればかなり美しい猫だといえるだろう。
「やれやれ、お前も匂いに釣られたか」
普段は余り穏やかな表情を浮かべることの無い男の目元が和む。
なぁ、と再度鳴いた猫が何かを期待するように金色の目で男を見上げた。
「…全く」
呟きながらも、躊躇うことなく男は手にした紙袋を開き、中から未だ温もりの残る茶饅頭を取り出した。
地面に膝をついて、細かく千切ると猫に向かって差し出す。
ふんふん、と用心深く匂いを嗅ぎ、猫はぱくりと其れに喰い付いた。
微笑ましい仕種で無心に茶饅頭の欠片を食べる猫の毛色は金色に近い黄色。
奔放に伸び、荒れた毛並みが其の野良猫の生活を物語っている。
しかし手入れをすればもっと綺麗になるだろうに、と思い。
其の拍子に、この猫が何かに似ていると見た時からずっと引っ掛かっていた疑問が男の中で解け、思わず憮然とした。
金髪赤眼の十年来の朋友。
例え無意識の中でそう思っていたにしろ、自分がこの猫に餌をやっているのは、あの男に似ているから、というわけでは決してない。
男は溜息をつき、茶饅頭を食べながら愛嬌の在る仕種で小首を傾げる猫に向かってぼやいた。
「あやつにも、お前のようにもう少し愛想があれば、可愛げが…」
言いかけた言葉が途切れる。
そんなもの、あるわけなかった。
其の事実に気づき、男は僅かに沈黙する。
あの顔で、愛想を振り撒くあの男など考えたくも無い。
在り得ない想像を頭から振り払い、饅頭を食べ終え、満足そうな顔でごろごろと喉を鳴らし、頭を男の手に摺り寄せて撫でろと可愛らしい要求をする猫に男は口元を綻ばせた。
力を余りこめず、幾度かそっと頭の天辺に手を這わせると、猫は目を細め、なぁんと鳴く。
「すまぬが、約束があるのでな」
名残を惜しみながらも立ち上がる。
其の足に一度だけ身体を擦り付けると、猫はたたっと男の先を進んでから振り返り。
にゃあ、と別れを告げるように短く鳴いた。



「ヒョーゴ」
後ろから声を掛けられ、驚く事も無くヒョーゴは振り返る。
「キュウゾウ。すまん、探したか」
「否、偶々見掛けただけだ」
淡々と答えるキュウゾウに、そうかとヒョーゴは頷き。

「にゃあ」

と無表情に鳴いた相手に苦いものを呑み込んだような顔を向けた。

「…何時から見ていた」
「茶饅頭を出した所から」
「……そういう時はさっさと声を掛けぬか!」
「邪魔をしては悪い」
大真面目な顔で嘯いたキュウゾウの眼には、だが面白がっている光が見え隠れしている。
「愛想が必要なのだろう?」
「馬鹿めっ!そんなもの愛想でも何でもないわ!」
怒鳴るとヒョーゴは足音も荒く歩き出した。
「いくぞ!」
「承知」

肩を怒らせたヒョーゴの後をついていくキュウゾウは何処か楽しげな顔をしている。
空を何よりも望みながら、確かにこの退屈で平穏な日々も悪いものではないと、其の顔は物語っていた。