Holiday
部屋にはぱらりぱらり、と本を繰る音だけが響く。
静かなものだ。
久方ぶりに与えられた休日。
その様な日は必ずといっていいほど、キュウゾウはヒョーゴの部屋へとふらりとやってくる。
特に何をするでもなしに、唯ヒョーゴの傍で時を過ごす。
妙な戯れを仕掛けてくる事は多いが、ヒョーゴはなし崩し的にその様な事にも慣れてしまった。
それ以外は邪魔でもなければ、鬱陶しいと思うことも無い。
何も喋らず、静かに傍に居るだけだ。
だから其の日もヒョーゴはキュウゾウの事は全く気にもせず、買うだけ買って放り出していた本を読むことに夢中になっていた。
髪を触れられる感触にふと我に帰る。
そういえば居たのだったか。
背後の気配をすっかり失念していた事に今更ながらヒョーゴは気づく。
本を読むことに熱中していると時間の感覚すら失う事はしばしばあることだ。
一緒に居ても気配の薄い人間の事は況して況やである。
キュウゾウの事は大して気にもせずヒョーゴは再度文字を追おうとし、後ろから伸びてきた手に眼鏡を取られ、其れが叶わなくなる。
「キュウゾウ」
慣れたとは言え、いい加減このような戯れはよせ、と溜息をつきつつ後ろを振り返りかけ。
眸を塞がれた。
「な」
にを、と言いかけた唇がひやりとした柔らかいものに覆われる。
視界を奪われていても判る、口付け。
するりと入り込んできた舌に一瞬応えかけて、ヒョーゴは眉根を寄せた。
かしゃんと眼鏡が床に落ちる音と同時に腰を後ろに引き寄せられる。
何も見えぬまま、無理な体勢で吐息を貪られる。
「…っ」
と、腰に回された手が下へと滑り落ち、ヒョーゴの熱を煽ろうと動き出した其の瞬間。
「ヒョーゴさん、今日どっか飲みにいきませんかぁ?」
ヒョーゴの部屋の前で上がった能天気な声と共に部屋の内部でごすっと鈍い音がした。
「…丁度好いところに来たな」
云いながら出てきたヒョーゴを見て、ハナカケという名のボウガン使いの男ははて、と首をかしげた。
ヒョーゴの顔にトレードマークのような色眼鏡が無い。
「あれ、眼鏡は如何したんですか?」
其の問いに対して、しまった、と云わんばかりの表情を浮かべたヒョーゴの顔にハナカケはもう一つの異変を見つけて、今度は真っ赤になって狼狽えた。
「ヒョ、ヒョーゴさん、その、口紅は…」
「ハナカケ」
みなまで云うな、と苦々しい顔つきでヒョーゴの視線がいっている。
其のヒョーゴの後ろ、将に部屋の中から鳩尾を押さえて出てきた男を認めてハナカケは自分の予想が確信に変わったことを知った。
「…ヒョーゴ」
名前を呼ぶ金髪頭の唇はヒョーゴと同じ色の紅がついている。
負けねえぞ!とハナカケが思ったかどうかは知る由もない。
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