賭け事




「あ」
「あ」
「あ」
砂の上に立てられた棒がついと傾き、数瞬だけ持ち堪えたが力を失ったようにふらりと倒れた。
其れを見ていた3人の声が見事に重なる。
「ああ、負けてしまいましたねえ」
頭をかきかきヘイハチは眉を八の字にして情け無さそうな顔をして見せた。
こんもりと盛り上げた砂の山に棒を一本立てて其れを倒さぬよう砂を取ってゆく遊び。
其の他愛の無い遊びに村の復興の合間を見計らってオカラとコマチはヘイハチを誘った。
「ヘイさん、棒倒し弱いです!」
「いえいえ、オカラちゃんとコマチ殿がお強いだけですよ」
ヘイハチの言葉に満更でも無さそうにコマチとオカラは顔を見合わせて笑った。
「負けた人は勝った人のいうこと何でも聞くですよ」
「オラが一番多く砂取ったから、オラの勝ちだ」
ししし、とオカラは特徴的な笑い声を上げる。
其の何かを企むような笑みにヘイハチは一抹の不安を覚えながら「はあ…」と応えた。



「シチさん」
「おや、ヘイさん」
家の建設の陣頭に立ち、指示をしていたシチロージは自分を呼ぶ声に気づき振り返った。
「如何しました?未だ休んでいても構いませんよ。此方は自分ひとりでも如何にかなりますから」
「いえ、一寸シチさんにお尋ねしたい事がありまして」
其の言葉に僅かに眼を見張り。シチロージは珍しい事も有るものですねえ!と相好を崩した。
「なんでげしょ。アタシにこたえられる事なら、何でもお答えしますが」
「それではお言葉に甘えて」
こほんとしわぶき一つ立てると、ヘイハチは率直に尋ねた。
「ええと、あなたはカンベエ殿の何処に惚れたのですか?」
質問を口にしてから、ヘイハチはおや?と内心で首を傾げた。
何か意図したことと違う事を聞いてしまったような気がする。
まあ、しかし結局はこういうことなのだろうと己の中で結論付け、ふとシチロージを見やると固まっていた。
どうやら思っていたことと全く違う事を聞かれて思考回路が停止したらしい。
「シチロージ殿?」
「…ヘイさん、其の質問は唐突過ぎますよ」
はあ、と深く嘆息し、シチロージはその場にしゃがみこんだ。
つられてヘイハチも座り込む。
「で、其れをどうしても聞きたいわけですか?」
「ええ、どうしても聞いてこなければならないんですよ」
其のヘイハチの言い回しにピンときたのか、シチロージは、嗚呼成る程と一つ頷いた。
「お嬢ちゃんたちか」
「そのとおりです」
実は遊びで負けまして、と恵比須顔で頭をかいて見せた。
道理でヘイハチから思いもかけないような質問が飛び出してくるわけだ。
「そういうことなら、仕方ないですねえ」
再度浅い溜息を落とすと。
シチロージは眼に艶めいた色を刷き、ヘイハチに視線を流した。
「ですから」
匂い立つような色気にヘイハチは息を呑んだ。
「カンベエ様の其のお強い所も、何でも許してしまう甘い所も、不器用な所も、貧乏籤を好んで引く所も、全ての責を負おうとする姿勢も、大事な事を何も言わないところも、自分よりも他人を優先する所も、…其のお優しい所も全部」
好きなのですよ、と臆面も無く言い放つとシチロージは文句の付けようの無い顔で笑った。
「…左様で」
しまった。藪から蛇を出したらしい。
シチロージの余りの惚気っぷりに米も食ってないのにお腹一杯になったような気分でヘイハチはじりじりと後退った。
「ヘイさん」
「は、はいっ」
蛇に睨まれた蛙のような心地でシチロージを恐る恐る見ると。
「お嬢ちゃんたちに宜しく」
先ほどの色気はまるで嘘だったかのように消え去っており、いつもの飄々とした態度でシチロージは手をひらひらと振って見せた。
「…ご馳走様でした」
其の姿に思わず手を合わせてそう呟き。
ヘイハチを今か今かと楽しみに待っている筈の二人の少女にシチロージの応えを如何伝えようかとヘイハチは頭を悩ませた。



『モモタロの好みを聞いてきてくれ』
「…矢ッ張り"優しい人"、ですかねえ…」









お粗末!