煙管
明け方近く。
僅かに東の空が白み、西へと落ちそうな按配の月を見上げながら、カンベエは襦袢を等閑に身に着け、煙管の煙を吐き出した。
「…ん、カンベエ様?」
「起してしまったか」
未だ寝ていても好いぞ、とカンベエは傍らで眠たげに目を開いたシチロージの頭を軽く撫で、穏やかな声をかけた。
「いえ、眼が冴えてしまいましたから」
髪を撫でる感触に心地良さそうに目を細めながらもシチロージは気怠げに身を起した。
肩から滑り落ちた布団の下から情事の痕跡が色濃く残る身体が覗く。
その姿を横目に見ながらカンベエは煙管を口から離すとシチロージに差し出した。
「吸うか」
「頂きます」
カンベエの吸い掛けの煙管を白く長い指で受け取り、シチロージはそのまま口に銜える。
ゆったりと煙を吸い、細く吐き出す。
其の唇がやがて仄かな笑みを浮かべ、悪戯気に嘯いた。
「あぁ、そうだ。こいつは吸い付け煙草になりますねえ」
吸い付け煙草とは遊里の風習で煙管に煙草を詰め、遊女の唇でその煙管を銜えて火をつけ、直ぐ吸える状態にしたものを客に差し出す事で意思表示をしたことに由来するものだ。
癒しの里では見慣れた其の光景をまさか自分がやるとは思わなかったとシチロージは感慨深げに呟いた。
「成る程。ということは、それを受け取ったおぬしは儂の誘いに応じると思って好いか」
「ご冗談を」
カンベエの戯れとも本気ともつかぬ言葉にシチロージは慌てて身体を隠すように夜具に包んだ。
そして恨めしげに一言。
「カンベエ様に付き合っておりましたら身体が持ちませぬ」
其の言葉に、機嫌を損ねたかのようにカンベエは無言でシチロージの首筋に零れる金色の髪を軽く引っ張った。
煙管を交わした後。
シチロージは湯を使おうと、億劫そうに腕を伸ばすとそこらに散らばっていた夜着を手元に引き寄せた。
そしてそれらを身に纏おうと身を起しかけた所で一瞬硬直した。
「どうした?」
訝しげにカンベエが問うとシチロージは眉根を寄せて僅かに頬を赤らめた。
「…いえ、何でも」
努めて平静に応えると着物を手に、慌てたように立ち上がろうとして。
足に力が入らなかったのか、ぐらりと身体の均衡を崩した。
「うわっ」
間抜けな声を上げてカンベエの方へ倒れ掛かったシチロージを難なく受け止めたカンベエの視線が何かを見つけたように一点で止まる。
「申し訳ありま…っ」
謝罪の言葉を口にし掛けたシチロージが、ふっ、と息を詰めた。
「ッ…、カンベエ様…っ!」
上擦る声を歯牙にもかけずカンベエは、手はカンベエの両肩に縋るような格好で膝をつき、腰を浮かせたシチロージの内股に手を滑らせた。
その指にぬるりとした白濁した液体が絡む。
歯を食いしばったシチロージの吐息が不規則に弾んだ。
シチロージの中から、先程カンベエが放ったものが零れとろとろと内股を伝い落ちてゆく。
其の淫靡な光景に。収まったはずの情動が不意に込上げた。
「シチ」
短く名を呼び、捕らえたシチロージの左手の指に舌を這わせる。
熱の無い機械でできた指を舐められ、尽きたと思っていた欲望がシチロージにざわりと兆した。
触れられているという感覚すらないというのに。
幻痛のように、快楽がシチロージの身体を蝕む。
「…仕様の無いお方だ」
一つ溜息をつき。
全てを受け入れるようにシチロージはカンベエの背に右手を回した。
お粗末!
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