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「キュウゾウ」
御前の護衛の任を終えて、与えられた自室へと戻る道すがら。
自分の斜め前を足音も立てずに歩くキュウゾウにヒョーゴは努めて感情を出さぬように声を掛けた。
「おぬし、先程寝ていただろう」
おや。ちらりと振り向き、傍目にはわからぬ程度に(勿論ヒョーゴには丸判りだ)、キュウゾウは顔を動かして見せた。
―――何故、ばれた。
「わからいでかっ!どれだけ長い付き合いだと思っている!」
悲しい事に無駄に長いその付き合いのせいで、外見の良さとはかけ離れたキュウゾウの中身を知っている。別段知りたくもなかったのに、否応無く知り過ぎていた。
昔からそうだった。
姿勢よく座っているかと思えば、寝ている。
上官に怒られて、神妙に目を伏せているかと思えば、居眠りをしている。
ちょっと見では全く判らぬほど、実に巧妙に眠るのだこやつは。
其のせいでとばっちりを受けたことは一度や二度ではない。
伏せ目がちな眼と長く奔放に伸びた髪は其の顔を都合よく覆い隠し、常に表情の変わらない顔は寝ていても変わる事はない。
唯、偶に。
端然と正座をしたまま鉄面皮に涎を垂らして熟睡している顔を見れば、怒りも湧こうというもの。
更にこの男の始末に終えないのは、その様に居眠りをしているにもかかわらず僅かであっても異常を感じる事があれば次の瞬間には反応し、刀を抜いている所だろう。
剣士としては比類の無い腕だという事は認めるが、人間としては最低の部類に入る。
其の事を改めて再確認してヒョーゴは額に皺を寄せた。

微動だにせず、座して御前の傍に護衛として控えているキュウゾウが実は完全に寝入っているという事実にどれだけの人間が気づいているだろうか。
実を言えばヒョーゴは御前以外になら誰にばれてもいいと思っている。
気づいたとしても指摘できるような人間はいないだろう、というのがその理由だ。
だが、そうは云っても御前にいつばれるかと思うとヒョーゴは気が気ではない。
「せめて組主連中の前で御前の傍に控えている時くらいは寝るなっ!」
キュウゾウに向かって説教をしながら何故自分がこのようなことを言わねばならぬのかと思い、情けなさの余り涙が出てきそうになる。
此れではまるで居眠りをする生徒を叱る教師ではないか。(子供を叱る母親のようだと一瞬たりとも思った自分を激しく憎んだ)
何が悲しゅうて、いい年齢をした男を居眠りしたという理由で怒らなければならんのだ。
「ヒョーゴ」
青筋を立てたヒョーゴの説教を其れ迄黙って聞いていたキュウゾウが何時でも何処でも変わらぬ平坦な声で名前を呼び。
「わかった。おぬしの前では眠らぬ」
そう宣言すると、話は其れまでとばかりにすたすたと歩みを進めた。
其れはどういう意味なのか問いただしたいような否寧ろ知りたくないと思いながらヒョーゴは遠ざかってゆくキュウゾウの背中を見送った。