月は慰めの言葉を持たず
…あの方が認めた其の強さが羨ましい。
あの方が与えた其の首筋の疵さえ妬ましい。
あの方しか映さぬ其の眼が憎らしい。
堰を切ったように溢れ出る甘い睦言のような恨み言をキュウゾウは唇を重ねて呑み込む。
「今はおぬししか映しておらぬ」
嘘ばっかり。アタシを通してあの方を見ているクセに。
そう嗤う男の眸こそ、あの男しか映していない。
「あの方が欲しいのでしょう?」
艶めいた溜息のように、耳元に注がれた言の葉が毒のように身体を廻る。
「けれど、あの方は誰のものにもならない」
あの方の其の優しく力強き腕は目の前にある何もかもを受け入れるくせに、其の背中は常に孤独。
どれ程傍に居ようと、寄り添おうとも、眸は此処ではない何処か遠くを見据え。
決して。
私だけのものには、なってくれなかった。
ふと切ない響きを宿した言葉が男の口から零れ、透明な雫が一筋、深い空の蒼を写し取ったような美しい色をした目の端から流れ落ちる。
私はあの人のものなのに。
其処まで云って、はっと男は己の口を塞いだがもう遅い。
云うはずが無かったと、彼の眼に映る呆然とした顔が其れを物語っていた。
本当は、だからあの方は貴方のものにはならない、と云う筈だったのに男の中の何かが狂った。
感情が理性を裏切り、唇から心の奥底に隠していたはずの本音が転がり落ちる。
そして。
一度零れた水が元には戻らないように、其の言葉はキュウゾウの記憶に刻み込まれた。
後悔と哀しみが綯い交ぜになったような、傷ついた表情が男の顔を覆う。
其れに対して、キュウゾウはこのような時に掛けるべき言葉を知らず。
「…」
唯、無言で男の涙を指で拭った。
お粗末!
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