よひ




戦いの余韻で体の火照りが治まらないことがある。
空気の中に残る血の臭いがそうさせるのか、それとも死に直面した究極の緊張状態が生殖本能を刺激するのか。―それともその両方か。


「七郎次」
敵方と小競り合いがあった日の夕方、槍の手入れをしていた七郎次は勘兵衛に声を掛けられた。動かしていた手元から顔を上げて七郎次は声の発せられた方を目だけを動かして探す。―思っていたより傍に勘兵衛が立っていて七郎次は見上げる形となった。
「今晩、暇か?」
問いの意図が読めず、七郎次は探るように顔を見上げる。逆光の中、顔はよく見えないが、その瞳が熱を孕んだ気がした。
「この手入れが終わったら…」
ふっと笑い、七郎次は再び視線を自分の手元の槍へと移す。
「勘兵衛様のところに行きます故」
何をするのか、とも、何がしたいのか、とも問うことはせずに七郎次はそう答える。
そんなことは、その瞳を見ただけで充分分かる。
射しこむ日の光が手を紅く染め上げ、洗い落としたはずの血がまだ残っているかのような錯覚に襲われる。まだ熱が冷めないのはそのせいかもしれない。


槍の手入れが済んだ後、一旦七郎次は自室に引き返すと軽く汗を流す。ざっと水を浴び、風呂場で再び手を見る。無機的な光に照らし出された手はいつもの色で、紅には染まっていない。それなのに、自分の中の熱が冷めないのはどういう理由だ、と七郎次は思う。
水を浴びたのにもかかわらず、体は火照り、息には熱が混じる。
この熱はもう、戦場の熱なんかではない。
(あの人は)
瞳が交叉した一瞬に火が点けられたに違いない。無自覚で煽るのだから罪なお人だ。七郎次は苦く笑むと、体を手荒に拭い風呂場から出た。
'コンコン'
そのタイミングを見計らったかの様に部屋がノックされる。
「開いていますよ」
どうせ何かの連絡だろうと相手も確かめずに声を掛ける。この砦にいる人間は味方であり、同じ釜の飯を食った仲間だ。気兼ねする理由がない。
しかし、扉を開けて入ってきた人間を見て驚いた。勘兵衛だったのだ。
「どうなさいました」
焦る七郎次を見て勘兵衛は人の悪い笑みを浮かべる。
「また、色っぽい格好だな」
「勘兵衛様っ!」
言われて初めて自分が今まで他人にはあまり見せたことがないような格好のままであることに気がつく。身に着けているものといえば、腰に巻きつけた布一枚。改めてそれを認識すると知らず七郎次の顔に朱が奔る。
「のちほど部屋に行きますと申しましたのに」
火照る頬を誤魔化すかのように、七郎次は恨めしげに勘兵衛を見遣る。
「暇だったのでな」
槍やメンテナンスの機械が無造作に置かれた空間をひょいひょいと避けながら勘兵衛が中に入ってくる。
武具と機械、そしてちょっとばかりの日用品ですでに一杯の部屋はもともと来客のスペースなどない。唯一ある広いスペースと言えば、ベッドばかりで。人が来た時は、いつもその場所をソファ代わりに座ってもらうのだが、お互いの欲が分かっているからこそ、その場所へ誘うのを七郎次は少し躊躇う。
そんな七郎次の逡巡を知ってか知らずか、勘兵衛はまっすぐにベッドに腰を下ろす。無意識のうちにいつもの如く七郎次の視線は勘兵衛を追う。
「シチ」
常とは違う柔らかい声でそう呼ばれ、七郎次の熱がぐっと上がる。
そのままベッドに行ってしまいたい気持ちを抑え、くるりと勘兵衛に背中を向けて棚から酒瓶を取り出す。
「勘兵衛様、お酒などいかがです?」
「別に要らぬよ」
楽しげに返答が返ってくる。七郎次の背中に勘兵衛の視線が向けられたのが分かる。七郎次は酒瓶を持ったまま振り向くと、そのままベッドへと足を向ける。
勘兵衛の瞳は孕む熱とは別にどこか冷静に観察しているようでもあり、七郎次はその瞳から冷静な部分を取り除いてやりたいという衝動に駆られた。―それ以外のことなど考えられなくなればいい。
「カンベエ様」
にこりと笑って勘兵衛の顎を持ち上げる。そして酒瓶から直接含んだ酒を口移しで流し込む。徐々に酒を流し込んでいるのか、それとも互いの口腔を貪り合っているのか判然としなくなる。互いに息があがり、唇をわずかに離すと、ねっとりとした透明な液が糸を引く。
「酒が零れたな」
互いを貪っている間に七郎次の唇の端から零れた液体の筋を辿り、勘兵衛が唇を寄せる。ぬるりとした舌の感触が七郎次の背筋を快感となって駆け下りる。
「はぁ…」
七郎次が吐息を漏らした瞬間、くるりと体勢が入れ替えられ七郎次はベッドに押し倒された。胸の尖りを吸われ、七郎次の背中がびくりと跳ねる。ベッドのシーツを握り締めていた手をそろりと勘兵衛の背中に回せば、その指先に布の感触が当たる。はたと気づくと勘兵衛はまだ服を着ていて。
一人だけ冷静さを失っているように感じて七郎次は悔しくなる。
「カンベエさま」
息があがっているせいでどうしても舌足らずな呼び方になってしまう。その呼びかけにふと勘兵衛の力が緩む。
「すみませんね」
にこりと笑って七郎次は体勢の上下を入れ替える。勘兵衛の服を捲りあげ、そして下穿きを寛げて屹立した彼の牡を口に含んだ。上目遣いに勘兵衛の顔を見上げればその瞳は熱く、その瞳に射抜かれ七郎次の中心も更に痛いほど張り詰める。
「一人だけ気持ちよくなっているのも…な」
くつりと喉の奥で笑い勘兵衛は体を起こす。突然のことに口を離して見る七郎次の白い背中をさらりと撫でて七郎次の耳元で何事かを囁く。と、同時に七郎次の顔が真っ赤に染まる。
「カンベエさま…っ」
「シチ」
その声で七郎次は観念する。勘兵衛様が望むことに逆らうことなど出来はしないのだ。
勘兵衛に尻を向けるような格好で四つんばいになり、再度勘兵衛の牡を口に咥える。
本来は排泄する部分に向けられているであろう勘兵衛の視線が痛い。恥ずかしい。しかしそれと同時に強く快楽を感じてもいる。
「っつ…う…」
尻を割り開かれ体の奥に熱いものを感じる。舐められているのだと分かった瞬間、七郎次は達していた。
「すみませ…」
「何を謝る?」
笑みを含んだ勘兵衛の声。堪らなくなって七郎次は体を起こす。
「カンベエさま…」
にじり寄って勘兵衛の顎に口付け、そして自ら、手を添えて奥へと勘兵衛の牡を招き入れる。達したばかりの体は、自身の精も相俟って案外すんなりと勘兵衛を奥へと受け入れた。
「カンベエさま…」
ほっとして七郎次がふわりと笑むと、勘兵衛の牡が一段と力を増した。
「シチ」
そう呼んだ勘兵衛の瞳にも余裕は微塵もなく。ああ良かったと何故か七郎次は安堵した。
次の瞬間埋め込まれていた勘兵衛の牡が動き出す。
「あ…」
感じる部分を擦られて、七郎次が堪えきれずに声を上げる。一度達した七郎次の中心が再び力を漲らせる。深く、全てを貪られる。もう耐えられない、と七郎次が思った瞬間、体の中に熱いものが溢れてくる感触がして、そして七郎次自身も再び達していた。
くたり、と力の抜けた体を倒し、七郎次は勘兵衛の胸板に倒れこむ。その日に焼けた胸に自らが零した白い精を見つけ、
「汚してすみません」
恥ずかしそうに笑んで七郎次がそれをぺろりと舐め取ると勘兵衛の瞳に再び熱が宿る。
(流石に、もうこればかりはご勘弁を…)
勘兵衛を本気にできた事は嬉しいけれど、すでにもう体力が限界に達していた。
七郎次は甘えるように勘兵衛の胸板に頬をすり寄せる。すると、耳元に心臓の鼓動が聞こえてきた。
とくん…とくん…
一体自分と勘兵衛様のどちらの心音なのだろうか…、と考えながら、規則的なその音に包まれて七郎次は次第に深い眠りへと落ちていった。

月の光を浴びて光る金の髪を撫でながら、勘兵衛は想いを馳せる。
今日は戦もあったし、思いの外体力を使い果たしてしまったらしい七郎次は腕の中で安らかに眠っている。
いつも行為の前に酒を飲むよう勧め、無理矢理にでも飲ませるのは、もし、勘兵衛の気が変わった時に酒の上での戯れだった、と、覚えていないと言い逃れる為だと気づかないとでも思っているのだろうか。

視線を交わらせるだけで熱に気付くくせに意外なところで抜けている。
言葉にするのは得意ではないが一度くらい言葉にしても良いかもしれない、とふと思いシーツに流れる金の髪を眺める。
月の光を反射して淡く控えめに輝くその髪は、勘兵衛には影のように寄り添う七郎次本人を表しているように見えた。












我が友seiからの頂き物で御座います。
忙しいのに無茶なお願いを聞いてくださって有難う御座いました!
しかし。…当方の書いた小話よりもエロいのは何故?
私を萌え死にさせる気ですか貴方は。
何はともあれ、感謝感激雨あられ!お有難う御座ァい!