慙愧
ふと、勘兵衛は自分が何をしているのかがわからなくなる瞬間がある。
空の上で刃を振るい、血に塗れる其の瞬間だけは何も考えずに、唯、無心だ。
だが、其れ以外の場合、例えば紛糾する軍議にて己の意見を述べている時、作戦の詳細を記した書類を作成している最中。
只管に空に居るサムライたちの命を救うための道を模索しながら。
――――自分のしている全てが誤りなのではないかという疑念に囚われる。
迷う事など許されない。
言葉一つで人を死に追いやる立場に在りながら、人の前で其れを嘆くことも、臆する素振りを見せることも、後悔することも出来ぬ、其の重責。
だが、逃げ出したいと思ったことは一度も無い。此れは己が望んだことなのだ。
若い頃は上が決する愚かな作戦に幾度も歯がゆい思いをして来た。
勝てないと判っているのに突撃の命令を繰り返す、身分だけは高い将。
己が助かる為だけに、沢山の若いサムライたちを捨て駒にした上官。
そんな人間が発する命令に、腸が煮えくり返るような思いで従ってきた。
ならば地位が上がれば上がるほど、無為に散らされるサムライたちの命を助けられる筈と、其の一念で漸く此処まで上ってきたのだ。
金も地位も名誉もいらぬ。
唯、空に散る其の命が欲しいと。
「…――――兵衛様?如何なさいました」
名を呼ばれ、勘兵衛は物思いから醒めた。
此処は執務室だ。如何やら明日の軍議に必要な書類を書く手を止めて、思考の淵に沈んでいたらしい。
何時の間にか己の副官が目前に居ることを認めて、気づかれぬ程度に顔を顰める。
声を掛けられるまで七郎次が机に座る自分の前に立っていたことすら気づかなかったとは。
「もうお休みになっては如何ですか」
心配げな色を眸に浮かべ、自らの身体を気遣う七郎次を勘兵衛は数瞬見詰め。
何か云おうと開きかけた口を閉ざし、勘兵衛は椅子から立ち上がった。
「…すまぬが、風にあたってくる」
規則正しい歩調で真っ直ぐに扉を目指す。
ただ、七郎次と擦れ違う瞬間だけ心の乱れを映すかのように、其れが早まった。
「お供します」
「来るな」
慌てて後ろについてこようとした七郎次に勘兵衛は切って捨てるような言葉を投げかける。
戸惑うようにその場に止まった気配を背後に感じて、もう少し云いようがあったのではないかと微かな後悔の念を抱きながらも、足早に執務室を後にした。
歩を進めながら自戒する。
副官として近くに置きすぎた。
此れ以上は危険だと理性が警告する。
あの時。気遣う七郎次に対して、
「…儂の選んだ道は本当に正しかったのか」
と、そう思わず己の弱さを示す言葉を口にしてしまいそうになった。
返ってくる応えは判りきっているというのに。
屹度、あの青年は肯定するだろう。
惑う事も、躊躇する事も、疑う事も無く。
そして、自分はあの時、確かに其れを望んでいた。
なんと脆いものか。
勘兵衛は自嘲を唇に上らせる。
弱さを曝け出すことが出来る存在など自分には必要ない。
況してや、心を預ける相手など。
拠るべきは己の力と刃のみ。
其れだけで、いいのだ。
だから、自分は他の誰でもない自らに問い続けなければならない。
甲板に出る扉を開けると、勘兵衛は吐く息すら凍てつくような強い風に身を晒しながら、思考を深いところへと沈めていく。
もっと兵の死なぬ策が在るのではないか。
もっと最良の途が在るのではないか。
――――自分の往く路は間違っているのではないか。
正しい未来は何処にある。
お粗末!
蒼様より頂きました7777HITキリリク…ということでお願い致します。(平伏)
マァ、本来のリクエストは「兎に角新作を是非!!!」ということだったので御座いますが。
当方の勝手によりおっさま話に相成りました。
…本当は最初にいっていたおっさまとオリキャラの話もUPしようかと思っていたのですが、まだまだ手を加える余地がありすぎてお見せできる状態に御座いません…。
蒼様、お待たせしまして申し訳御座いませんでしたが、リクエストをどうも有難う御座いました!
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